小説好きがおすすめする、歴史小説の選び方と初心者にもおすすめしたい小説5選!

小説好きがおすすめする、歴史小説の選び方と初心者にもおすすめしたい小説5選!

歴史小説。これは日本の文化や歴史を学ぶことのできる小説です。新選組や戦国武将、はたまた平安時代にまで我々をタイムスリップさせてくれます。

興味があるけれど何から読んだら分からない…という人にも向けて歴史小説の魅力と選び方を解説。自分の好みに合った歴史小説を探してみて下さい。

記事の後半では、歴史が苦手な人にも、元々歴史が好きだけれど歴史小説は読んだことがないという人にもおすすめしたい歴史小説をご紹介いたします。魅惑の歴史小説の世界に飛び込んでみましょう!

歴史小説とは?その魅力もチェック!

歴史小説と聞くとなんだか難しそうだと思う人がいるかもしれません。実はそんなことはなく、専門知識などなくても楽しめる作品が多くなっています。

歴史の背景や偉人たちの足跡をたどることで史実を知ることができる歴史小説。

普通の小説を読むのと同じ感覚で歴史を知っていくことが出来る小説です。

歴史小説の魅力は何と言っても実在した事象をテーマに、作者が独自の解釈をし、それを再構築している点にあります。例えば、皆さんが思い浮かべる「織田信長」という人物。彼は傍若無人で血も涙もない戦国武将、というイメージがあるかと思います。しかし、作品によっては彼は実は病弱だったという解釈や、うつけ者といわれる行動はわざと行っていたという解釈がされます。歴史小説の面白いところは、教科書で勉強しただけでは分からない側面が見られるところです。表面的にしか知らない歴史上の人物でも、歴史小説で読んでみたら大好きになれるかもしれません。歴史の知識を深めるうえでも役に立つ歴史小説は今も昔も根強い人気があります。

歴史小説は、自分の興味があるところから選ぶべし!

歴史小説の選び方はいたってシンプルです。

ズバリ、自分の興味のある人物、時代、事象などから選ぶことです。

一口に歴史小説といっても、縄文時代から昭和まで幅広く存在しています。その中で、自分の最も興味のひく分野を選ぶことが大切になります。

更に、有名な偉人だけではなく町人や名もなき人々が主人公であることもあります。特定の人物に注目したい場合はその人が主人公の作品を、その時代の生活様式や文化が知りたい場合は町人などが主人公のものを選んでみるのが良いでしょう。

漫画やドラマ、映画などで出てきた歴史上の人物が少しでも気になったら、その人の歴史小説を読んでみてください。その人物や時代のことをより一層知ることが出来るので、最後まで楽しんで読めるはずです。

厳選!おすすめ歴史小説5選

初心者から上級者までおすすめしたい歴史小説を5作品ご紹介していきます。

著者の好みが凝縮されているので時代に偏りがありますが、どれも逸品となっています。興味のある作品があったら是非読んでみて下さい。

司馬遼太郎「燃えよ剣」

おすすめポイント
  • 戦いのシーンなどのリアルな描写
  • 土方歳三像を作った作品
  • 文学的な表現

司馬遼太郎が手掛ける、鬼の副長と呼ばれた土方歳三が主人公の作品。

いま世に出ている土方歳三のイメージを作り上げた快作となっています。2021年秋には実写映画も公開され、発売当時から今まで、人気の高い作品となっています。

1962年から連載開始され、書籍は592ページという大作でもあります。

郷里ではその男を「バラガキのトシ」と呼んだ―――幕末を生きた武士・土方歳三の生涯を色鮮やかに描いており、その心情、新撰組をまとめ上げる苦悩、そして最期まで読むことが出来ます。武州多摩郡石田村の豪農の子・歳三は幼年から喧嘩に明け暮れ、手も付けられない「バラガキ」と呼ばれていました。そんな歳三が試衛館の近藤勇と会い、都へ上洛していきます。新選組としての日々や別れ、動乱の時代に翻弄されながらも己の信念を貫き通した彼の一生を知ることが出来るでしょう。

「男の一生というものは美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」

という台詞の通り、ひたむきに剣を磨き、美しく人生を生き抜いた土方歳三。その生き様を文学的な表現でも描いているのがこの作品の魅力です。教科書には名前が載っているだけでしたが、燃えよ剣を読めば彼の生きざまや信念に触れることが出来ます。

歴史をあまり知らない人でも、土方歳三という男の生き様を知るという意味でおすすめしたい小説です。一度は名前を聞いたことがある「土方歳三」という男がどんな人物だったのか、是非その目で確かめてみて下さい。

夢枕獏「陰陽師」

おすすめポイント
  • 雅な平安時代の描写が綺麗
  • 晴明と博雅のバディが見どころ
  • 和ホラーの要素も楽しめる

平安時代の陰陽師・安倍晴明を主人公とした伝奇小説の要素がある歴史小説。死霊、生霊、鬼などが人々の身近に潜んでいた平安時代。安倍晴明は陰陽師として名を馳せ、天皇からも認められる存在でした。宮廷の雅で美しい様子と、晴明が対峙する妖怪たちのおどろおどろしさが対照的に描写されていきます。非常に美しい情景に思わず感嘆してしまうほどです。

クールで知的な安倍晴明と、その親友であるはつらつとした楽人・源博雅のバディも見どころです。一見合わなそうに見える2人ですが、お互いに足りない部分を補うかのようにして共に事件の解決をしていきます。晴明と博雅の軽妙な掛け合いが、物語の鍵となり、話のテンポを良くしている印象です。

また、様々なメディアでも展開されており、アニメや漫画、映画などにもなっているほど人気のある作品です。小説を読んでから他の媒体で楽しんでみるのも良いかもしれません。

陰陽師、ということで妖怪たちがたくさん出てくるのもこの作品ならでは。晴明が術を使って魑魅魍魎を退治していくのが基本的なお話となります。和風ホラーのような恐ろしい描写があるので、ホラーが好きな人にもおすすめです。今回ご紹介している「陰陽師」は短編集となっており、「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」「梔子の女」「黒川主」「蟇」「鬼のみちゆき」「白比丘尼」の6話が収録されています。単話で呼んでももちろん楽しめますが、全編通じて漂う雰囲気を味わうのをおすすめしておきます。

富樫倫太郎「土方歳三」

おすすめポイント
  • 少年漫画のような土方歳三の描き方
  • 上下巻に分かれているので持ち歩きやすい
  • 難しい言い回しなどが少なく、ソフトで読みやすい

こちらも幕末を生きた武士・土方歳三の歴史小説です。筆者は重度の新選組好きなので今回の紹介で新選組の本が多くなってしまう事をここにお詫び申し上げます。

富樫倫太郎氏の描く土方歳三はまた一味違った良さがあります。司馬遼太郎著「燃えよ剣」が土方像を作ったことは有名ですが、その土方像を受けつつも、また少し違った人物として描かれています。上下巻に分かれており、上巻では歳三の10代から池田屋事件まで、下巻ではそれ以降を描いています。富樫倫太郎氏の土方歳三は、少年漫画の主人公のような清々しさと、どこか泥臭くもへそ曲がりな人物になっています。どちらかというとソフトな土方歳三ともいえるでしょう。何処か愛嬌のある雰囲気に仕上がっており、新鮮さを感じられます。鬼の副長と呼ばれた土方歳三の人間らしい一面を主体に描かれています。

また、上下巻に分かれているので本自体の厚みもなく、出先で読み進めるのにも最適です。時代小説といえばかなりのページ数があるようなイメージですが、この本はさらっと読めるほどのページ数になっています。ですが内容も満足できるものになっています。装丁もかっこ良い土方歳三のイラストとなっているのでスタイリッシュに持ち歩くことが出来ます。

時代小説といえど、難しい表現が少ないのが富樫倫太郎氏の作品の特徴です。かたい武士言葉や、聞いたことのない言い回しが最小限に抑えられており、作品へ没入しやすくなっています。爽やかな印象と何処か初々しい新選組の様子が味わえるでしょう。初心者にも特に、おすすめしたい作品です。

山田風太郎「魔界転生」

おすすめポイント
  • 柳生衆VS魔界衆というバトルもの
  • 伝奇小説に分類されることもしばしば
  • エログロありの大人向け

歴史小説と伝奇小説と怪奇小説をミックスしたような独特の世界観で展開していく魔界転生。幾度となく映画化・舞台化されるほど根強い人気を残しています。

歴史上の剣豪たちを魔界転生という秘術で蘇らせ、「魔界衆」として陰謀を企てていきます。魔界転生した偉人たちはどんなに生前人格者であっても破壊と陵辱の限りを尽くす魔人と化してしまいます。そんな魔界衆を食い止めるべく立ち上がったのが柳生十兵衛を筆頭とする柳生衆です。魔界衆には天草四郎時貞、荒木又右衛門、宮本武蔵などの面々が顔をそろえます。柳生衆VS魔界衆という時代を超えたスペクタクル時代小説ともいえるでしょう。

その設定の特殊さからしばしば伝奇小説とされることも多く、様々な時代が入り混じるため、なかなか混沌とした世界観を味わうことが出来ます。描写も山田風太郎独特のものが多くなっているため、いい意味で「歴史小説らしくない」小説だとも言えるでしょう。

「5ページに一回くらいの割合で誰かが全裸になってて、10ページに一人くらいで誰かが真っ二つになる」といわれるほどエロティックな描写とグロテスクな描写が多用されています。というのも、魔界転生の秘術が非常に外道的だからです。森宗意軒が西洋の黒魔術と日本の忍術を組み合わせて編み出した秘術といわれている魔界転生。呪術者が自身の指を切り落とし、それらを生贄の女性の胎内に宿させ、死の淵に瀕した偉人達を新たな肉体を持った魔人として再誕させる、といったものになります。

そこから展開していく内容になるので、なかなかグロテスクな要素もあります。

アンダーグラウンドな雰囲気とバトルものを楽しみたい人にお勧めです。

京極夏彦「ヒトごろし」

おすすめポイント
  • ダークな雰囲気の土方歳三を描く
  • 圧倒的なボリューム
  • 表現力と描写力に脱帽

史上類を見ないほど、土方歳三をダークに描いた歴史小説がこの「ヒトごろし」です。京極夏彦といえば視覚的にもガツンと来るほどの文章量が有名ですが、このヒトごろしも例外ではありません。1000ページを超える超大作となったこの作品の視覚的インパクトは抜群です。そして、「人を殺したい」その欲求だけで新選組を作った、と解釈される土方歳三は初めて見る姿でした。

元々、京都の治安維持のために結成された新選組でしたが、人斬り集団として京都の町からは畏れられていました。その側面が特に色濃く描かれている作品です。人々に鬼と恐れられた新選組の副長・土方歳三は胸に蠢く黒い衝動を抱えて生きていきます。人でなしとして生きる道を選び、激動の時代を血塗られた姿で駆け抜けた男の一生を、豊かな表現力と爽快な文章で書き綴った新しい歴史小説です。

人外とは何か、人外として生きるのならばどうやって人間を動かして行くべきなのか。そんな苦悩が垣間見え、土方歳三がどうして鬼と呼ばれたのか、その理由付けにもなっています。徹底的に人として狂った部分がありつつ、頭の中では非常に論理的で澱みのない思考をしているのでスムーズに読み進められる土方歳三像となっています。

1000ページを超えるこの本は持ち歩きには不向きですが、その圧倒的な文章量を読ませるだけの京極夏彦氏の表現力と描写力が素晴らしいです。ページ数に圧倒されながらも、いつの間にかスラスラとその時代に没入していってしまうほど。陰惨なシーンもありますがそれだけではないリアルさが素晴らしいです。

今まで紹介してきた土方歳三が主人公の歴史小説とはかなりかけ離れた土方歳三を描いているので、新しい新選組の在り方を見てみたい人にはお勧めです。

歴史のロマンを感じよう

歴史小説を読むことで日本の歴史を学ぶことは勿論、その時代特有の空気感を楽しむことが出来ます。自分の好きな人物やその時代をより深く知ることが出来るのは勿論、歴史の新しい切り口や新たな発見をすることも出来るでしょう。

有名な偉人だけではなく、普段なら知ることのできない町人の暮らしぶりや当時の人々の生活を覗き見られるのも歴史小説の醍醐味です。

様々なところに散りばめられている歴史のロマン、皆さんも感じてみてはいかがでしょうか。