美しい世界に浸る!耽美小説おすすめ10選

美しい世界に浸る!耽美小説おすすめ10選

とにかく美しい世界に浸りたい…そう思う時はありませんか?筆舌に尽くしがたいほど甘美で妖しい世界を堪能したいときには耽美小説がおすすめです。昨今では「エログロお耽美」という造語もあるくらいで、一言では語れない独特の世界観の作品が多くなっています。一体耽美小説とはなんなのか、耽美小説の世界をご紹介し、おすすめ作品も10作品取り上げていきます。

耽美小説って?

耽美主義(たんびしゅぎ、英: aestheticism)は、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。

Wikipediaより

耽美小説とは、とにかく美しい小説のことを指します。その美しさが文学的な表現にあるのか、内容にあるのか、はたまたキャラクターにあるのかは個人にゆだねられます。自分が「美しい」と思えればその作品はもう耽美小説となるのです。

ここでいう「美」とは表面的な美しさであり、「無意味で無価値」で構わないというのが大切になっています。美しさの理由などいらない、というのが耽美主義の考え方です。背徳的な雰囲気を孕んでいるものが多く、耽美のモチーフとして、破戒・禁忌・背徳・禁断の愛・刹那的享楽・SM・エロ・グロ・退廃・死・宗教的な側面などが取り扱われます。他の文学作品にはない独特の雰囲気を纏っている作品が多い印象です。

ただひたすらに美に耽る、これが耽美小説の魅力であり最大の特徴となっています。

佐藤ラギ「人形―ギニョル―」

第3回ホラーサスペンス大賞を受賞した、2003年発売の「人形」は退廃的な美しさを描いた作品です。文庫本にもなっておらず、「知る人ぞ知る」作品となっています。

ギニョルと呼ばれる美しい男娼と出会い、純白の肌に刻まれた紅い傷跡が平凡な中年男だったはずの「私」の中の常識や何かを壊していく。少年は加虐されることを好み、そういった行為に傾倒していく様子を描いたものとなっています。主人公である「私」の心の中に潜む僅かな加虐欲と中途半端な庇護欲が上手く表現されている作品です。残酷な描写もあるので苦手な人はご注意を。

少年の描写が実に美しく、彼らを取り巻く空気感が背徳的な雰囲気を孕んだ隠れた名作です。

エログロお耽美を求めている人におすすめです。

オスカー・ワイルド「ドリアングレイの肖像」

耽美主義作家といえばオスカーワイルド。「サロメ」などで有名な彼が1890年に出版した「ドリアングレイの肖像」は表現の美しさにため息が出ます。

美少年のドリアングレイは絵画のモデルとして活動していました。そこで享楽主義の男と出会い、様々な快楽に傾倒していくが、その罪悪が描かれた絵画に反映されていきます。いつしか絵の中のドリアンの容貌は醜く変り果て、ドリアンはその恐ろしさに憔悴していき…

「美しさ」と「快楽の悪」を描いたこの作品は甘美な美しさと何処かグロテスクな欲望を上手く表現しています。果たしてドリアンはどうなっていくのか。緩やかに破滅の道を進んで行く様子が鮮やかに描かれています。

葛藤や苦しみの中にある美しさを味わいたい人にお勧めしたい一作です。

森博嗣「トーマの心臓」

萩尾望都原作の少女漫画、「トーマの心臓」を森博嗣によって小説化された作品。元の漫画も美しく少年たちの淡い恋と友情との境目ともいえる感情を表現しており、小説化されたことにより、一層明確な表現となって描かれています。ギムナジウムで過ごす少年たちの青春は繊細で実に甘美なものとなっています。

漫画では描かれなかった少年の心情を細やかに丁寧に描いているのが印象的。描写の美しさもさることながら、ギムナジウムという閉鎖された世界観を見事に伝えてくれる作品です。

爽やかな春の風と木漏れ日と少年たちの繊細な心を巧みに描いた「トーマの心臓」は耽美小説初心者の方でも読みやすい内容となっているでしょう。

谷崎潤一郎「痴人の愛」

1925年に出版された谷崎潤一郎の「痴人の愛」は耽美小説の中でも有名なものとなっています。カフェの女給から見出した15歳の少女、ナオミを育て、いずれ自分の妻にしようとした男が彼女の魔性に惑わされ、破滅の道へと進んで行く物語です。小悪魔的な少女の魅力を存分に描いたこの作品は、エロティシズムな雰囲気と日本のじっとりとした空気感で進んで行きます。谷崎の甘美な文章力には脱帽です。

「ナオミズム」という言葉まで生み出した作品ですので、少女の魔に狂わされたい方にお勧めです。

三島由紀夫「仮面の告白」

1949年出版の三島由紀夫の代表作でもある「仮面の告白」。

人と違う性的傾向に悩む主人公が自分自身のことを客観的に分析していく様子が描かれています。「同性愛」という内容を取り扱った作品は当時は珍しく、注目された作品です。

自分自身の背徳的な欲望を描き出し、日常生活のなかに潜む甘美な心の闇をリアルに表現しているため、文学的にも人気となっています。

耽美と文学を同時に楽しみたい人にお勧めです。

夢野久作「ドグラ・マグラ」

1935年に刊行された夢野久作の長編小説。小栗虫太郎「黒死館殺人事件」、中井英夫「虚無への供物」と並んで、日本三大奇書に数えられている作品です。ドグラ・マグラは「読むと精神に異常をきたす」といわれているほど難解で独特の表現が多くなっています。私も読んだことがありますが、精神に異常をきたしたりしておりません。あらすじを読むだけでは話の内容はわかりません。

しかし何処か美しく妖しい雰囲気の漂う名作であることは間違いありません。是非その目で「ドグラ・マグラ」の幻想的な世界を覗いてみて下さい。

江戸川乱歩「黒蜥蜴」

テレビドラマや戯曲としても人気の「黒蜥蜴」は1934年に刊行された江戸川乱歩の長編小説です。「美しいもの」だけを狙う美貌の女盗賊・黒蜥蜴を追って探偵の明智小五郎が奮闘するという探偵小説となっています。

トリッキーでアクロバティックな探偵小説ですが、その中でもやはり江戸川乱歩らしい表現が多く、美しい小説です。独特の世界観と、昭和のレトロな香りが漂う作品は、どの時代でも人気が高く、読みやすさはお墨付き。美しい盗賊の物語を読みたい人におすすめです。

森茉莉「枯葉の寝床」

森鷗外の娘として有名な森茉莉の短編集の1篇。

甘美な少年愛の様子を描いた作品は女性作家ならではの繊細さが光ります。

いたいけで儚げな少年レオは、ギランという中年に愛されていました。しかしレオはある日別の男に抱かれてしまいます。それを知ったギランの愛憎、嫉妬、欲望を表現した作品です。どこか夢見心地にすらなるような美しい描写と男のまなざしが耽美な世界にいざないます。同性愛表現が色濃いので苦手な人は注意が必要ですが、文学的にも美しい一作となっています。

トーマス・マン「ベニスに死す」

映画にもなった、トーマス・マンの小説「ベニスに死す」。

ドイツで名声も富も手に入れた老人が旅先のベネツィアで出会った美少年に惹かれ、その少年を追い求めてしまうという作品。

ベネツィアの都市の描写が色鮮やかで、畳みかけるように美少年の美しさも語られていきます。作者がいかにこの美少年を描きたかったのかが伝わってくる作品です。

ストーリー性はあまりありませんが、とにかく美少年を堪能し、主人公の老人の気持ちになってしまう表現が多くなっています。

映画と合わせて楽しむともっと作品に酔いしれることが出来るでしょう。

フランスBLセレクション「特別な友情」

ラベンダーの香り立ちこめる寄宿舎の暗がりで、栗色の髪の高貴な僕と美しい君は、神の目を盗んで今夜結ばれる…こんな美しいあらすじ紹介から始まる、少年同士の愛を描いた作品をまとめた一冊。ランボー、コクト ー、ジッドといった有名どころが遺した美しい表現とロマンティックな愛の世界に没入することが出来ます。

禁断の恋から純愛まで少年たちの愛を描いているので、とにかく美しい作品が読みたい方におすすめです。

美しく妖しい世界に浸りたいときは耽美小説を読んでみよう!

ひたすらに頭を空にして美しい世界に浸りたいときは是非耽美小説を読んでみましょう。耽美と呼ばれる映画もたくさんありますが、耽美小説には文学にしかない美も味わうことが出来ます。

耽美小説を楽しく読むコツは、「美に酔いしれること」です。とにかく頭を空にして美しく妖しい世界に没入してみましょう。耽美小説にしかない独特の味わいがあなたに何かをもたらしてくれるかもしれません。