沼にハマれる!初めての人におすすめの純文学小説15選

沼にハマれる!初めての人におすすめの純文学小説15選

一度は耳にしたことがある「純文学」。小説のジャンルなんだろうな、と分かっている人は多いけれど具体的には何を読んだらいいのでしょうか。今回は、純文学の特徴と素晴らしさを簡単に説明したあと、本好きの筆者が初心者の方でも楽しめるおすすめの純文学作品を15作品ご紹介していきます。気になるタイトルがあったら是非手に取ってみて下さいね。

純文学とは一体何か。

純文学、とひとくちに言っても一体どういったジャンルの小説なのかわからない人も多いでしょう。純文学とは、文学性や芸術性の高い小説のことを指します。純文学の対称にあるのが「大衆文学」と呼ばれる作品たちです。大衆文学とは、SFやフィクションなどのストリー性やエンターテインメント性が問われる作品となっています。それに比べ、純文学は日本語の美しさや表現の巧妙さなどに着目され、評価されているものです。それぞれの作家が「正しい文学のあり方」を追及した作品が多くなっており、人間の苦悩や人間関係、心情を綴ったものが主となっています。

純文学の魅力は、芸術性の高い美しい文章を堪能することが出来、自分の知らない感情や考え方に触れることが出来る点にあります。大衆文学が「面白い話に出会う」楽しさであるならば純文学は「新しい表現や感情に出会う」楽しさがあるといえるでしょう。

直木賞は大衆文学小説に、芥川賞は純文学小説に授与されるという特徴もあります。

芥川龍之介「羅生門」

1916年に出版された短編集に収録されている「羅生門」は芥川龍之介の名作です。純文学の代名詞ともいえる芥川の「羅生門」は下人と老婆の会話を中心に進んで行きます。

荒廃した羅生門の上にはたくさんの死体が転がっており、その一つから老婆が髪を抜いてかつらを作っています。下人はその老婆と会話し、最終的に老婆の衣服をはぎ取って逃げていきます。道徳的な精神や倫理観について考えさせられる内容となっています。刹那的な出会いがどう作用するのか、どう心に影響していくのか、そんなことを想像してしまいます。短い作品となっているので、初心者にも読みやすいでしょう。

太宰治「人間失格」

1948年に出版された太宰治の代表作ともいえる「人間失格」。「恥の多い生涯を送ってきました」というフレーズが非常に有名です。映画化・漫画化も多数にされており、作品に触れたことがあるという人も多いのではないでしょうか。主人公である葉蔵の刹那的で破壊的な人生について独白のような形で語られる小説となっています。主人公の暗い感情や鬱々とした描写に読む方も体力が必要になりますが、それでも読みごたえは抜群です。壮大なテーマを掲げているわけではなく、むしろ人間的な細やかな陰について繊細に描写されています。読了後は気分が落ち込みますが、太宰治の巧みな描写に感嘆せざるを得ないでしょう。

夏目漱石「こころ」

1914年に出版された「こころ」は高校の教科書にも掲載されており、読んだことがある人も多いでしょう。純文学の世界においても、夏目漱石の文章は非常に読みやすいとされており、純文学初心者でも入り込みやすくなっています。芸術性の高い繊細な情景と主人公の葛藤を巧みに描いたのが、「こころ」です。

罪悪感を抱えたまま生きてきた登場人物の吐露や、過去の思い出話を語る様子が丁寧に描写されており、様々なことを考えながら読むことが出来ます。「こころ」は描写が綺麗なだけではなく、その物語性をとってみても読みやすくなっています。純文学で何を読んだらいいかわからないという人は是非「こころ」を読んでみて下さい。

梶井基次郎「檸檬」

梶井基次郎の「檸檬」は1925年に出版された短編集のうちの一つです。知性と感性の優れた視点から物語を描いていくことに梶井基次郎は定評があります。国語の教科書にも採用されたこの「檸檬」一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

主人公の感じる得体の知れない不安、焦燥感を巧みに描き、ふと見つけた檸檬を爆弾に見立ててみるいたずら心を描写しています。主人公の心情をリアルに表現した近代作品となっています。少し疲れた心に沁み込んでくるような文章が特徴的です。作品自体も短いので、サクッと読める純文学といえるでしょう。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

1934年に発売された宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は美しい世界観と友情を描いた純文学となっています。少年ジョバンニが、親友のカムパネルラと共に銀河鉄道に乗って冒険していく物語です。ストーリー性のある内容の中に、主人公の心理描写が細やかに散りばめられており、心情の変化を追いながら何処かノスタルジーな雰囲気を楽しむことが出来ます。宮沢賢治特有の柔らかく幻想的な描写が魅力の一つです。孤独と別れ、そして友情とは何か、そんなことを考えさせてくれる作品です。美しい文章と幻想的な世界観を楽しみたい人におすすめしたい一冊となっています。

三島由紀夫「金閣寺」

三島由紀夫「金閣寺」は1956年に発売された作品です。1950年、「国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世間の人々を驚かせました。この実際に起きた事件をベースに、緻密な心理描写と金閣寺のうつくしい情景描写を交えながら物語が進行していきます。青年の苦悩、葛藤、怒りを見事なまでに表現しており、世間的にも非常に評価の高い三島由紀夫の代表作ともいえるでしょう。

三島由紀夫の作品の魅力は、美的感覚の優れた詩的な表現と古典劇を基礎とした耽美的な描写にあります。それらがふんだんに盛り込まれた「金閣寺」は美しい日本語の文章を読みたいという人にお勧めです。

川端康成「雪国」

ノーベル文学賞作家として有名な川端康成の代表作がこの「雪国」です。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という一文が非常に有名で、耳にしたことのある人が多いのではないでしょうか。雪に埋もれた温泉街を舞台に、主人公は1人の女性に心を奪われます。ひとりの男の意識の中に映し出される女性の美しさを繊細に描いた作品です。川端康成の文体は幽玄の美を思わせるようなものが多く、日本特有のさりげない美しさに気を配ってある印象です。雪国の情景が目に浮かぶほどの巧みな情景描写に溜息をつきたい人におすすめしたい一作品です。

中島敦「山月記」

中島敦のデビュー作である「山月記」は1942年に発表されました。中国の古典を参考にして書かれた作品ですが、中身は非常に文学的なものとなっています。傲慢さゆえに孤独となっていった李徴が虎となってしまった様を描いています。流れるようなリズムの文章と中国古典を彷彿とさせる言葉選びが魅力的な作品です。言葉の美しさだけではなく、山月記は人は誰でも猛獣になり得るのだという人間の羞恥心と自尊心に焦点が当たっています。自分も虎になり得るのだと考えさせられる1冊です。

森鴎外「高瀬舟」

国語の教科書にも掲載されていた「高瀬舟」は安楽死をテーマにした作品です。

貧しい兄弟の弟がある日自殺を図ってしまいました。しかしそれでも死にきれず、苦痛の中で兄に殺して欲しいと願います。兄は余りの痛々しさに弟を楽にしてあげるべくその手にかけてしまいます。その罪を償うために捕まった兄。護送させる船の上で罪人の兄と奉行同心は淡々と会話をしていきます。どうすることが道徳的なのか。善と悪では割り切れない部分をまざまざと見せつけられている気分になります。森鴎外の硬めの文体と古典的な日本語の美しさが光る作品です。

ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」

少年の日の何処か苦々しくみずみずしい思い出を描いたヘッセの「少年の日の思い出」。こちらも国語の教科書に掲載されていました。

少年のことから収集していた蛾にまつわる苦々しい思い出。罪悪感と後ろめたさが入り混じった後悔と懺悔を描いています。主人公はある時、珍しい蛾を羽化させた友人の家に忍び込み、羨望からその蛾を盗み、壊してしまいます。その謝罪をしても受け入れてもらえず、重々しい気持ちを抱えたまま生きていくことになります。小さな罪であったとしても、取り返しのつかないものがあることを考えさせられる作品です。

サン・テグジュペリ「星の王子さま」

世界的名作といわれる「星の王子さま」。世界でいちばんやさしい物語と言われるほど、繊細で柔らかい雰囲気の作品です。星々を旅する王子様に出会った主人公と、王子様が出会ったものたちについて描いていきます。どこを読んでも優しく、どこが欠けてもいけないと思わされるほど美しい作品です。哲学的な描写も多々ありますが、それでも文学・芸術的な文章に引き込まれていきます。難しすぎない表現が多く、非常に読みやすい作品です。「本当に大切なものは目に見えない」というフレーズが有名で、物語を通してから味わうとより心にしみる一節となります。疲れた時、ほっとしたいときに読んでほしい一冊です。

J.D.サリンジャー「ライ麦畑で捕まえて」

1951年に出版された長編小説です。学校を放校処分となった16歳の主人公がクリスマスの前にニューヨークを巡って行く物語です。口語体で書かれた珍しい小説で、社会の欺瞞に対して疑問を投げかけ、自分自身の道を突き進んでいく様子が描かれています。同世代の若者たちからの支持が熱く、ベストセラーにもなったほど。少年の苦悩や社会に対するやるせなさを描きながらみずみずしく溌溂とした描写も多くなっています。不器用な少年に感情移入しながら読むことが出来る一冊。読了後の何とも言えない爽やかさは癖になります。

宮下奈緒「羊と鋼の森」

2015年に出版された、近代作品。ピアノの調律師を目指す青年を主人公としてその日々を描いていく作品です。2018年に映画化もされました。

主人公はたまたまピアノの調律をしている所を見て、ピアノの調律師を目指します。地元を出て専門学校へ通い、楽器屋に就職が決まります。ピアノの調律を通して様々な人と出会い、挫折も経験し、成長していきます。ピアノの調律師という身近にはいない存在ですが、優れた情景描写でその職業が一体どんなものなのか想像させてくれます。音楽の描写、主人公の心情、さりげなく散りばめられた比喩表現に至るまで美しく調和されています。静かで落ち着いた文学作品です。

住野よる「青くて痛くて脆い」

2018年に出版され、2020年には映画化された「青くて痛くて脆い」は大学生の心情を描いた作品となっています。相手を顧みることが出来なかったり、自分自身の感情と向き合おうとしなかったりする大学時代の青くて痛くて脆い部分を緻密に描いています。主人公の大学生が抱いてしまった上手く表現できない心情を文章化し、読者にもその感情を植え付けてくる表現には脱帽します。サスペンスのような入りですが実際はそうではないのもこの作品の面白いところです。

現代的なテーマを文学的に表現しており、葛藤や苦悩も色鮮やかに描かれています。読みやすい文章なので、初心者の方でも気軽に楽しめるでしょう。

又吉直樹「人間」

お笑い芸人・又吉直樹の3作目になる「人間」。又吉氏本人が太宰治好きと言う事もあり随所に太宰へのリスペクトが垣間見える作品です。

何かを表現したいと思う若者の苦悩。自分の中にいた何かが死んでいくような怖さ、個性がなくなっていってしまうのではないのかという怖さを描いています。誰しもが感じたことのある底知れない不安を見事に表現しています。内向的な語りも多く、そういった点でも「人間失格」を彷彿とさせる部分がありました。どこかひりひりとした核心的な表現が見事です。

純文学で文章の美しさに酔いしれよう!

おすすめの純文学作品をご紹介してきましたが、気になるものはあったでしょうか。有名どころからちょっとマイナーな作品まで取り揃えてみました。

小説は、初めて触れる感情や表現を味わい、自分の心を豊かにするのに一役買ってくれるでしょう。純文学の中の言葉は時には私たちの心を癒し、時には指針になることもあります。純文学を初めて読む人は、是非その文章一つ一つを楽しみながら読んでみて下さいね。