読書家の間でも根強い人気を誇るミステリー小説。
ページをめくるたびにわかる事実や回収されていく伏線、ワクワクが止まらないストーリー、個性豊かな登場人物。予想だにしていない展開から、トリッキーな犯行方法まで、現実世界ではなかなかお目にかかれない世界がそこには広がっています。
そんな魅惑のミステリー小説ですが、様々な種類がありすぎて何を見たらいいかわからない・どれから読むべきかわからないという人のために、2000冊の蔵書を抱える筆者が厳選したおすすめのミステリー小説をご紹介していきます。
児童向けの優しいミステリーから、どんでん返し系、アッと驚くものまで用意してみました。気になるものがあったら是非手に取ってみて下さいね。
目次
江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」
- 児童向けだからといって甘く見てはいけない本格ミステリー
- 乱歩特有の世界観
ミステリの父・江戸川乱歩が1930年代から1960年代にかけて執筆し、出版された児童向けの探偵小説。名探偵・明智小五郎とその助手である小林芳雄少年、その小林少年を団長とする少年探偵団が活躍するミステリーとなっています。二十の顔を持つとされている大怪盗・怪人二十面相が予告状を出し、町の高級品を盗もうとするが明智探偵や少年探偵団の活躍で守られる、というのがシリーズの大きな形式となっています。今あるミステリーの大きな基盤となる形式です。
全26巻というボリューミーなものとなっていますが、やはりここは第1巻である「怪人二十面相」を是非読んでいただきたいです。
今も色あせないほどのワクワク・ドキドキする展開。昭和11年の作品とは思えない作品です。江戸川乱歩独特の昭和の空気感や耽美な描写に酔いしれることもできます。戦後の何処か背徳的でダークな雰囲気が端々に感じられ、日本のミステリーならではの空気を醸し出しているのも特徴です。江戸川乱歩初心者にもお勧めしたい一冊です。
はやみねかおる「僕と先輩のマジカルライフ」
- 大学生の日常×ミステリー!
- キャラクターが個性豊かで飽きない
2003年に出版された、大学生活の日常に潜む謎を解き明かしていくミステリー小説。殺人事件などは起こらず、日常的な謎を解決していく内容となっています。
晴れてキャンパスライフを送ることとなった主人公の井上快人は、大学の近くにある「今川寮」というボロボロの下宿で、その幼なじみ川村春奈と共に、同じ大学に通う長曽我部慎太郎と出会います。変人だらけの下宿先でも異彩を放つ変人っぷりの長曽我部先輩に誘われ、「あやかし研究会」にうっかり入会してしまいます。おかしな事件に巻き込まれながらもそれらを解決していくというストーリーになります。
ミステリー小説と聞くと人が亡くなったり、殺されたりするイメージがありますが、この小説ではそういった描写はないので、グロテスクなものが苦手な人でも読むことが出来るでしょう。
また、キャラクターも個性豊かで読んでて飽きないため、小説事態に慣れていない人でも楽しめること間違いなし!著者のはやみねかおる氏は児童向けの青い鳥文庫などで推理小説を出版しています。そのため、ライトなタッチの推理小説となっています。
恩田陸「象と耳鳴り」
- サクサク読める短編ミステリー
- 恩田陸の軽やかだけれど深い文体に引き込まれる
「夜のピクニック」や「ユージニア」などで知られる恩田陸氏の短編ミステリー小説。
「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです」退職判事である関根が喫茶店で出会った老婦人が語り出したのは奇怪な象による殺人事件でした。その事件のほころびを見つけた関根。その事件の真実は一体何なのでしょうか。「象と耳鳴り」をはじめに「曜変天目の夜」や「給水塔」といった短編が12編収録された1冊となっています。
ミステリー小説を読んだことが無いという人でも読みやすい文体に、難しすぎないトリック、文学的な表現が魅力的な作品です。恩田陸氏特有の爽やかな文体と緻密で豊かな情景描写に読者は引き込まれていくでしょう。ワクワクハラハラというよりも、穏やかな気持ちで読むことが出来る、純文学に近いミステリー小説という印象です。
1話ずつ完結し、それぞれがコンパクトにまとまっているので長編だけではない、短めのミステリーが読みたい人におすすめです。
コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」
- ミステリーの王様、シャーロックホームズシリーズ
- 短編になっているので初めて読む人も安心
王道ミステリー、ミステリー小説といえばこれ!誰しもが一度は名前を聞いたことのある名探偵・シャーロックホームズの小説です。世界中で愛されるクールな名探偵と助手のワトソン博士のバディが送る本格ミステリーは初心者にもおすすめです。
ロンドンで活躍する天才的な頭脳を持つシャーロックホームズの天才的な推理はもちろんのこと、語り手でもあるワトソン博士との掛け合いや2人の会話も見どころです。
シャーロックホームズシリーズはたくさんあるので何から読んだらいいかわからない人もいるかと思います。そんな人にはぜひこの「シャーロックホームズの冒険」を手に取って頂きたいです。最初の短編集という事もあり、登場人物の把握やトリックなどがわかりやすいものとなっています。冒頭に収録されている「ボヘミアの醜聞」はいまでも大人気の短編となっています。
ホームズシリーズは色々な出版社から出版されており、挿絵の多いものや、日本語訳が優しいものなど、様々です。自分の好みに合った1冊を見つけてみて下さい。
城平京「名探偵に薔薇を」
- 幻想奇譚のような世界観
- 耽美な描写
「虚構推理 鋼人七瀬」で本格ミステリ大賞を受賞した城平京氏の長編ミステリーデビュー作。
「第一部 メルヘン小人地獄」と「第二部 毒杯パズル」の二部構成になっており、架空の毒薬である「小人地獄」を巡った事件が巻き起こっていきます。各メディアに送られた「メルヘン小人地獄」という猟奇的な内容の童話から物語は始まります。その童話になぞらえて第一の殺人が起き、それに続いて事件が連鎖していきます。そこに主人公の名探偵が登場し、事件を捜査していくというストーリーになっています。
何処か幻想的な雰囲気をまとったまま事件は進んで行くため、幻想奇譚のような印象を受けます。耽美な表現も多い為、その世界観に圧倒されるでしょう。グロテスクな描写や悲惨な人間関係模様が描かれているので苦手な人は注意が必要です。
雨穴「変な家」
- インターネット発祥のミステリーホラー
- 現実なのか創作なのかわからない巧妙なつくり
インターネットで掲載していたほんのり怖い話だった文章をボリュームアップして書籍化したミステリーホラー小説。とある間取りをテーマに、その間取りの歪さ、おかしな点を探し出し、情報を集めながらその真相へと迫っていくタイプの小説です。中古の一軒家を購入することにした主人公の友人。この友人から相談を受けてその間取りにある奇妙な隙間について調べていきます。そしてたどり着いた真実は、恐ろしいものでした…。というもの。こちらも、実際に殺人のシーンなどはありませんが故人の話などは出てくるので苦手な人は注意して下さい。
著者の一人称視点で進んで行く作品のため、妙にリアリティがあり、読者もその奇妙な世界観へといざなわれていきます。著者がライターと言う事もあり、小説というよりも、インターネットのブログや記事に近い形式になっているのでより一層小説の中に引き込まれていくのかもしれません。
淡々と謎が解けていく快感を楽しめる作品となっています。
横溝正史「犬神家の一族」
- 何度も映画化された名作!
- 王道本格ミステリーの世界観を楽しめる!
幾度となく映画化・ドラマ化され、一度はタイトルを聞いたことのある人が多い「犬神家の一族」は、横溝正史著のミステリー小説です。金田一耕助シリーズの代表ともいえる作品です。
第二次世界大戦後の混沌とした情勢の中、信州財界一の巨頭・犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、骨肉の争いが目に見えるような条件の遺言を残して他界します。犬神家の莫大な資産と遺産相続をめぐって巻き起こる見立て殺人を金田一耕助が解決に導いていきます。重なった偶然が悲劇を生み、血塗られた一族たちの争いと巧妙なトリックに引き込まれていくこと間違いなしです。
推理小説好きなら一度は読んでおくべき名作ともいえるでしょう。
1972年に出版されましたが、今読んでも色あせることのない鮮やかな人間模様には脱帽です。昭和の匂いを感じさせる世界観の作り方も圧巻で、巨匠と呼ばれた横溝正史氏の表現力に圧倒されるでしょう。金田一耕助と一緒に推理しながら読み進めていくのがおすすめです。
知念実希人「仮面病棟」
- 医師でもある著者によるミステリー
- 映画化もされた面白さ
小説家であり、医師でもある知念実希人氏の「啓文堂大賞」受賞作品。2020年には映画化もされた作品です。
主人公の当直勤務していた病院はある夜、ピエロの仮面をかぶった男たちに襲撃され、負傷を追った女性の治療を行います。その後、強盗犯であるピエロの仮面の男たちは病院に立てこもり、主人公たちと身元不明の入院患者、病院職員64名が人質として監禁されることになりました。病院に監禁される中で主人公は病院自体に隠された謎に気付き、真相に迫っていきます。
名探偵が華麗に解決するストーリーではないのがこの作品の面白いところで、名探偵役(謎解き役)は当直バイトをしている主人公になります。
また、病院の描写が非常にリアルで、医師でもある著者の経験が活きている印象です。王道ミステリーとは一味違った面白さのある作品となっています。
今村昌弘「屍人荘の殺人」
- ○○○×ミステリー!?サバイバル要素も
- 王道ミステリーの手口とトリッキーな設定
鮎川哲也賞受賞、本格ミステリ大賞受賞など、国内ミステリーランキング4冠を達成した大注目ミステリー小説です。2019年に映画化され、大ヒットを記録しました。
神紅大学のミステリー愛好会のメンバーである葉村と、自称「神紅のホームズ」こと明智が難事件を解決している「探偵少女」剣崎に誘われ、曰くつきの映画研究会の合宿に参加します。その日近くで行われていたライブイベントにて、とんでもない事態が巻き起こり、宿泊していたペンションに閉じ込められてしまいます。しかしそれは連続殺人事件の幕開けでした。
王道のホームズとワトソン博士のペアを彷彿とさせる、ミステリー好きにはたまらないコンビが活躍していきます。この作品はただのミステリーにとどまらず、サバイバル要素やまさかの展開が待ち受けているのでハラハラドキドキを味わうことが出来るでしょう。
緩急のあるミステリーを楽しみたい人におすすめです。
京極夏彦「魍魎の匣」
- 読む隕石と称された1冊
- 重量感のあるストーリーと意外な展開
1060ページという、隕石のような見た目の1冊。本が苦手な人はびっくりしてしまうようなボリュームになっています。
箱を祀る奇妙な霊能者。少女の四肢が詰められた箱。そびえたつ箱型の研究所。「匣」を巡り様々な事件が巻き起こり、それらが一つに収束していきます。美少女の転落事件と巷で話題のバラバラ事件を結ぶ鍵は「匣」にありました。美しくも狂気の事件は、やはり京極堂によって祓い落されていきます。京極夏彦氏の「百鬼夜行シリーズ」第2作目となるこの作品は、群像劇の形をとっており、それぞれの行動が最終的には一つに収束していきます。
信じられないような事件が起こりますが、京極堂によって論理的に説明されていき、解決へと導かれていく様子は、見事な話の作りになっています。膨大な量ですが、いつの間にか読み切っていた、というほど没入することが出来ます。民俗学・心理学などを交えながら怪異を究明していく過程がなんとも心地良いテンポで進んで行きます。
どっぷり世界観に浸りたい人におすすめです。
没入感のたまらないミステリーを楽しんでみては?
おすすめのミステリー小説を10作品紹介してきました。皆さんの気分に合わせて短編・長編を選んだり、サスペンス要素やホラー要素があるものを選んだりしてみて下さいね。ミステリーの醍醐味はその世界観への没入です。自分に合う、お気に入りの人作品を是非見つけてみて下さい!