ミステリー小説界の妖怪・京極夏彦。読んだことが無い人でも圧倒的な本の分厚さから一度は書店で見かけたことがあるのではないでしょうか。
そんな京極夏彦の長編・「百鬼夜行シリーズ」は20年以上も続く人気作品です。タイトルだけではどの順番で読んだらいいかわからない・読んでみたいけれど分厚くて躊躇っている…という方に向けて、読む順番と簡単なご紹介をしていきます!
目次
京極夏彦の百鬼夜行シリーズは順番通りに読むべし!
ミステリーと妖怪が合体した、「読む隕石」と比喩される百鬼夜行シリーズは順番通りに読むことをお勧めします。
作品の舞台は戦後まもなく。そこから時系列で作品は進んで行くため、巻数を重ねるごとに登場人物の関係性が僅かに変化したり、前の巻に出てきた人物が再登場したりします。物語に没頭するためにも時系列で読むと良いでしょう。
【1】姑獲鳥の夏(1994年)
この世には不思議なことなどなにもないのだよ――
メインキャラクター・中禅寺秋彦こと京極堂の台詞が印象的な、「伝説の始まり」となり第一巻です。
久遠寺医院の娘は20か月も子供を身ごもったままだという…その夫は密室から失踪し、行方知らずとなっていました。怪現象が頻発する有名医院の謎に、京極堂の一行が迫っていきます。現代ミステリーの金字塔とも言われる作品です。
キャラクター同士の関係性が他の巻よりも詳しく描かれており、一番初めに読むべき1冊。文庫版で600ページですが、他の巻より比較的少ない方なので読みやすいでしょう。初めて読む人は、姑獲鳥の夏で「京極夏彦ワールド」を体験し、その空気感に触れてみて下さい。
【2】魍魎の匣(1995年)
トリックなんてないんだ――
駅のホームから転落した美少女。病院に運ばれた彼女は忽然と消えてしまいました。同時に起こる町でのバラバラ殺人事件。この2つの事件に接点はあるのか。匣をめぐる壮大なミステリーの最高傑作です。
第49回推理作家協会賞受賞の作品です。奇妙な事件が点と点で繋がり物語を紡いでいく、臨場感あふれる作品。最高傑作といわれるほど濃い内容となっており、多数のメディア化をされています。文庫本にしてなんと1060ページ。とにかく読みごたえ抜群です。この作品を読んだ後、彼岸へ行くこと間違いなし。
【3】狂骨の夢(1995年)
また殺しましたね――
とある教会にやってきた女が口にした懺悔は、とんでもないものでした。自分の夫を殺害し、首と胴体を切り落としたというのです。しかもその夫は何度も生き返り、そのたびに殺したと。妄想とはいいがたい語り方とその謎めいた発言に困惑します。そして不思議な出来事が続いた時、京極堂が動き出します。
900ページを超える大作ですが、狂骨の夢は伏線の張り方がとんでもないので一気に読むことをおすすめしておきます。
グロテスクな要素を孕みつつ、何処か切なさと美しさのあるストーリーには目を見張るものがあります。
【4】鉄鼠の檻(1996年)
あなたを殺しているのは、誰です――
老舗旅館の庭に突然現れた僧侶の死体。山を走る少女の目撃談。意図のわからない怪異現象が起こり、困惑していく主人公たち。そしてその謎を解くためにとあるお寺へと向かいます。そこで彼らを待ち受けていたものとは。
今までの作品と一味違い、「禅」をテーマにした作品となっているため、好き嫌いが分かれる作品です。禅と悟りに沿ったストーリー展開と、圧倒的な知識量に驚かされること間違いなし。小説を読んでいるとどこからともなく線香の香りがしてくるような作品。
【5】絡新婦の理(1996年)
偶然は必然である――
女学校に拠る美貌の堕天使と鑿を使う目潰し魔。この二つの怪が、京極堂をうならせます。連続殺人事件は蜘蛛の巣のように張り巡らされ、主人公一行を困らせます。輪廻のように巡らされる仕掛けは、蜘蛛のごとし。
美しい冒頭から一転、複雑な事件が連続していきます。しかしエンタメ要素もはらんでいて非常に読みやすい1冊となっています。美女と美少女がたくさん登場し、華やかな作品となっています。いつも涼しい顔の京極堂が苦戦している様子が見られるのも非常に魅力的です。1400ページを超える超分厚い作品ですが、読ませる仕様になっています。
【6】塗仏の宴 宴の支度(1998年)
この世は全て真実ですよ――
戦時下に起きた大量惨殺事件だが、その記録はどこにも残っていません。真実を追い求めた者たちがその闇に迫っていきます。宗教や軍隊との関わりとは。この宴が収束することはあるのでしょうか。
「塗仏の宴」は上下巻に分かれており、トータル2000ページ越えの超大作。ですが、短編のように分かれているため、非常に読みやすくなっています。こちらは前編なのでまだ下準備にすぎません。どんでん返しは1度ではないのです。これまでに登場した人物たちがたくさん出てくるので、シリーズを読んでおくとより楽しめるでしょう。
【7】塗仏の宴 宴の始末(1998年)
人が人を殺さないのは、人だからですよ――
かつて起きた殺人事件の真相は明らかになるのか。シリーズ最強の難敵ともいえる相手に京極堂一行は太刀打ちできるのか。宴の始末に入ります。
「塗仏の宴」の後編です。張り巡らされた伏線に感動しつつ、大立ち回りを見せるお馴染みのメンバー、そして満を持して登場する京極堂への興奮の高まり。これが妖怪小説の最高峰・京極夏彦の作品だ!と吹聴したくなるような作品です。エンターテイメント性にもあふれ、読みやすくなっています。
【8】陰摩羅鬼の瑕(2003年)
謎とは、知らないこと――
白樺湖畔の洋館に住む伯爵に嫁いだ女性は皆死ぬという。この呪われた家にまつわるなぞとは一体なんなのでしょう。迎えられた5人目の花嫁も、警備もむなしくその呪いにかかることに…
湖畔での殺人事件、という非常にシンプルでわかりやすい構成となっています。ミステリー初心者でも読みやすく、ミステリーとしての核も抑えられています。シリーズ通してもっとも語り手である関口が活躍するところも見どころです。死をテーマに、哲学的な要素が多いのも魅力のポイントです。
【9】邪魅の雫(2006年)
僕は嘘しか云いませんよ――
江戸川・大磯と変死体が次々と見つかります。どちらも青酸カリによる毒殺だといわれていたが、その真実は如何に。その連鎖を断ち切るために、京極堂が憑きもの落としを始めます。
1300ページを誇る作品です。シリーズで一番最近出たものとなっています。シリーズの中でも蘊蓄の部分も少なく、読みやすい仕様となっていますが、妖怪要素が少なめになっています。事件が異常に複雑なため、じっくり読むことをおすすめします。
その他スピンオフもご紹介!
百鬼夜行シリーズはいくつかのスピンオフ・短編を出しています。好きな登場人物にクローズアップされているものがあったら読んでみるとより楽しめるでしょう!
サイドストーリー
- 百鬼夜行 陰(1999年)
- 百鬼夜行 陽(2012年)
榎木津礼二郎スピンオフ
- 百器徒然袋 雨(1999年)
- 百器徒然袋 風(2004年)
中禅寺敦子スピンオフ
- 今昔百鬼拾遺 鬼(2019年)
- 今昔百鬼拾遺 河童(2019年)
- 今昔百鬼拾遺 天狗(2019年)
- 今昔百鬼拾遺 月(2020年) ※鬼、河童、天狗をまとめた1冊。
百鬼夜行シリーズで彼岸へ行こう
とんでもないページ数と独特の世界観に圧倒されて手に取っていなかった人も多かったかもしれません。しかし、百鬼夜行シリーズを読めばいつの間に戦後間もない昭和にタイムスリップし、登場人物と一緒に難事件に巻き込まれることが出来ます。そのくらい、筆舌に尽くしがたい表現力とストーリー性があります。
是非、百鬼夜行シリーズで日常と非日常の狭間を体験してみてはいかがでしょうか。